2020/1/21 ノーモア・ヒバクシャ訴訟 最高裁で初の弁論

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公開日 2020年01月23日

更新日 2020年01月23日

1月21日、ノーモア・ヒバクシャ訴訟の最高裁判所の弁論が開かれました。 今回は、原爆症認定の基準の1つ「要医療性」が争点となります。最高裁で被爆者が直接証言したのは、今回が初めてです。
東京反核医師の会は事務局を派遣し、当日の弁論の傍聴を行いました。以下、傍聴記を掲載します。

ノーモア・ヒバクシャ訴訟 最高裁弁論を傍聴して

今回の弁論の争点は、原爆症認定の要件の一つ、「要医療性」である。広島、長崎、愛知でそれぞれ争われている裁判に関して、高裁で異なる判断が示されており、最高裁で統一見解を示す必要が生じた。

具体的には、白内障でのカリーユニ点眼薬の処方を伴う経過観察について、広島高裁は医療性有り、福岡高裁はなしと判示し、慢性甲状腺炎での経過観察を名古屋高裁は医療性ありと判示している。

 国側の主張は、「被爆者援護法第10条1項の“現に医療を要する状態”とは治療適応の状態にあることを意味している。当該の被爆者は症状を改善するための積極的な治療(手術、ホルモン剤の投与等)をしておらず、経過観察に留まっており、治療適応の状態にあるとはいえない。よって、要医療性があるとは認められない」というもの。

 これに対し、長崎弁護団の原章夫弁護士は、「被爆者援護法第10条の2項には、1項に規定する医療の給付の範囲が列挙されており、その1号に「診察」が挙げられており、経過観察が医療に含まれると解するのが自然だ」と指摘し、「医療現場において、経過観察が重要な医療行為であることは論を待たないことで、経過観察が医療ではないとでもいうような国側の主張は医療に対する侮蔑だ」と主張した。

 

 以上のように、論点そのものは「医師が診察して経過観察するのは、要医療性があると認められるか」という、比較的シンプルなものである。

しかし、当日の弁論はそれだけにとどまるものではなかった。

 最高裁で被爆者が直接証言するのは、今回が初めての機会である。それゆえに弁護団には、「単なる要医療性の解釈に留まらず、被爆の実相を伝え、75年間にわたる被爆者への行政の不作為とそれに対する被爆者の闘いの歴史を総括した弁論を行う必要がある」という信念があった。

 内藤淑子さん(広島訴訟原告)は、被爆当時、生後11カ月。家族とともに、下痢・嘔吐・発熱の症状が続き、成人後も、高脂血症、血圧異常、白血球増加、脳動脈瘤など様々な病気に罹患し、40代後半には両眼ともに白内障と診断された。被爆二世である子どもの健康も心配で不安がつきまとっているという。

 高井ツタエさん(愛知訴訟原告)は、被爆者だからと身内に反対する人がいて結婚できない、と交際相手に告げられた。過去を捨てようと、名古屋に移住し、被爆者であることを夫にも隠して生活を続けてきたが、東日本大震災と続く福島原発事故をきっかけに、「被爆者として生きていこう」と決意したという。

 こうした証言からわかることは、原告にとって、原爆症認定訴訟は、単に「お金」を求めての訴訟ではないということだ。いやおうなく「被爆者」としての人生を歩まされることとなった自らの、生の尊厳を求めての闘いなのである。

 その他、樽井直樹弁護士(愛知弁護団)は、最高裁松谷訴訟判決(2000年8月)が現在の要医療性の解釈に与える意義について述べ、佐々木猛也弁護士(広島弁護団)は、自身が31.5キロメートルの距離から原爆投下を目の当たりにした体験も踏まえて、原爆被害の実相を訴えた。

最後に弁論に立った藤原精吾弁護士(ノーモア・ヒバクシャ訴訟全国弁護団連絡会団長・近畿弁護団)は「最高裁判所が被爆者にどう向き合うのかが問われている事件である」とし、「裁判所が政府の誤った被爆者行政を正してきた歴史を今一度想起し、判決で日本の行くべき道を示されることを求めます」とまとめた。

 

 判決は来月、2月25日に言い渡される。

弁論後に行われた記者会見の様子。2人の原告は「一刻も早く原爆を世界からなくしてほしい」と訴えた