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公開日 2022年01月06日
更新日 2022年01月07日
菅義偉前首相は「黒い雨」訴訟の広島高裁判決への上告を断念し、「84名の原告の皆様と同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対応を検討します」と述べた。
これに基づき、厚生労働省、広島県・市、長崎県・市の5者による被爆者認定指針改定の協議が進められ、12月23日の第3回協議で、厚労省は「『黒い雨』訴訟を踏まえた審査の指針改正の骨子(案)」を示した。
しかし、この骨子案は以下に述べるとおり、複数の大きな問題を抱えている。
まず、本骨子案には「11種類の障害を伴う一定の疾病にかかっていることが確認できること」を求める「疾病要件」が残っているが、これは広島高裁判決に反している。広島高裁判決は、「原爆の放射線により健康被害が生ずることを否定できないことを立証することで足りる」としており、また、黒い雨に直接打たれた場合以外にも、内部被曝による健康被害を受ける可能性があったことを認めている。つまり、現在疾病に罹患していることではなく、健康被害が生じる「可能性」こそが、同判決において示された基準であるはずだ。
さらに骨子案は、「黒い雨に遭った者の考え方」として、「黒い雨に遭った当時の状況(場所・時間帯、降雨状況、生活状況など)が原告と同じような事情にあったこと」を要件にしている。つまり広島の原告と「場所」「時間帯」が異なる長崎の人々は対象外だというのである。
だが、長崎も原爆による被害は広島と同じであり、長崎の被爆未指定地域においても黒い雨が降ったことについては、1999年の証言調査をはじめ数々の証拠が残っている。厚労省の姿勢は、「今なお苦しみ続けている被爆体験を有する方々に対し、長崎で黒い雨等が降ったかどうかの事実認定のための新たな裁判を誘発するもの」(長崎県・市)に他ならない。裁判を待たなければ認めないというのであれば、何のために協議に長崎県・市を招いたのか。本協議の実態が、あらかじめ決められた結論ありきであったことが、ここに表れている。
本骨子案は、「黒い雨」訴訟の経緯を全く踏まえておらず、同じ被爆者の間に分断をもたらすものであり、断じて許容できない。
東京反核医師の会は、被爆者認定指針において、(1)疾病要件を削除すること、そして(2)長崎の被爆体験者を除外せず、黒い雨や灰など内部被曝による健康被害が生じる可能性のあった全ての人を被爆者として救済する方針を示すことを求める。
2022年1月6日
核兵器廃絶・核戦争阻止 東京医師・歯科医師・医学者の会
(東京反核医師の会)
代表委員 向山 新、 矢野 正明、 片倉 和彦
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