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公開日 2023年09月08日
当会は9月8日、以下の声明を内閣総理大臣、東京電力代表執行役社長宛てに送付しました。
ALPS処理水の海洋放出に抗議する
日本政府は8月24日、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を開始した。しかし、海洋放出は以下に述べるような様々な問題点を含んでおり、人々の健康といのちを守る医療者として、容認できるものではない。
1)政府と東京電力は2015年に福島県漁連に対し、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束をしているが、福島県漁連、全漁連は現在に至るまで海洋放出反対の姿勢を表明しており、福島県内の多数の自治体が海洋放出反対、または陸上保管等を求める意見書を提出している。海洋放出の強行は一方的に国が国民との約束を反故にする行為であり、民主主義の否定である。事故の責任者である政府と東京電力が、国民の声を無視することは許されない。
2)世界中の原発からトリチウムを含む排水が放出されているのは事実だが、このことは、ALPS処理水の海洋放出を正当化しない。
①ALPS処理水は燃料デブリに触れており、通常の排水とは異なる。ヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106などトリチウム以外の核種が残存していることを東京電力も認めている。また、放射性物質の測定が行われているのは一部のタンクのみに過ぎない。
②トリチウムについては、体内組織と有機結合して長期間残存したり、生態系を通じた生物濃縮が起きる危険性が指摘されている。体内で被ばくし続ける内部被ばくの影響を、単純な線量に置き換えるのは適切ではない。
3)海洋放出の期間について、政府は30年程度と述べている。しかし実際には廃炉作業は遅れ続け、燃料デブリの取り出しの見込みは2023年現在も立っていない。「広域遮水壁」などの、地下水流入を止めるための対策もほとんど検討されておらず、半永久的に放出が続けられる可能性が高い。
また、海洋放出以外にも、大型タンク貯留やモルタル固化などの代替案が技術者、研究者から提出されているが、既に実績もあるこれらの代替案について、政府・東京電力はまともに議論を行っていない。
4)政府は「風評被害」対策として800億円の基金を設け、水産物の売り上げ減少に対しては東京電力が賠償を行うとしているが、原発事故の被害とは、放射線被ばく以外にも、地元産業の崩壊、コミュニティの分断、精神疾患の増大など多面的であり、その全てが金銭では取り返しのつかない実害である。これらを「風評」にすり替えることは被害の矮小化であると同時に、被害を訴える声を「風評加害」として抑圧し、言論の自由を奪うものである。
以上の理由から、我々は、ALPS処理水の海洋放出に強く抗議し、ただちに中止することを求める。
2023年9月8日
核兵器廃絶・核戦争阻止 東京医師・歯科医師・医学者の会
(東京反核医師の会)
代表委員 向山 新、 矢野 正明、 片倉 和彦
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